セカンドエプロン時代 NBAは「金を払えば勝てるリーグ」ではなくなった
2026年10月7日
2024年、ミネソタ・ティンバーウルブズ小規模マーケットチームながらはWestern Conference Finalsまで進出した。 いわゆる、ベスト4だ。
アンソニー・エドワーズ:2020年ドラフト1位で圧倒的な身体能力を活かしたオフェンス・ディフェンスで次世代のNBAの顔になる可能性を秘め伸び盛り。
ルディ・ゴベア:ベテランビッグマン身長216㎝ NBA最優秀守備選手賞を当時3回(現在は4回)とディフェンスでは圧倒的な実力を持つ
カール・アンソニー・タウンズ(以下KAT)2015年ドラフト1位で身長211㎝115キロと屈強な身体ながらハンドリングと3ポイントを40%で決めリバウンドも強い。 歴代最高のシューティングビッグが全盛期中。 ジェイデン・マクダニエルズ:2020年のNBAドラフトにて全体28位と下位順位ながら、206cmの長身と長い翼長を活かした激しいマークが持ち味で、2023-24シーズンにはNBAオールディフェンシブ2ndチームに選出。
若手・中堅・ベテラン選手がバランスよくこのコアメンバーを中心に、ようやく優勝を狙えるチームが完成しつつあるように見えた。 普通なら、このロスターを維持して翌シーズンも優勝を狙う。しかし開幕直前、ウルブズはKATをニューヨーク・ニックスへトレードした。
これは単なる高額契約の整理ではない。
KATは2015年のドラフト1位で加入し、新人王、複数回のAll-Star、All-NBAに選ばれたフランチャイズプレイヤーであり、NBA史でも屈指のシューティングビッグだった。9年間チームの中心にいた選手を、チーム史でも屈指の成功を収めた直後に手放したのである。 その背景にあったのが、現在のNBAのチーム作りを大きく変えているSecond Apronだった。
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ウルブズはすでにWIN NOWへ全振りしていた
KATのトレードを考えるうえで重要なのが、2022年のルディ・ゴベア獲得だ。 ウルブズはKATのオフェンスに注力してもらうため、苦手なディフェンスの負担を減らすべくゴベアを獲得するため、ベバリー、ビーズリー、ジャレッド・バンダービルト、2022年ドラフト22位のウォーカー・ケスラーらに加え、4つのドラフト1巡目指名権と1つのドラフト1巡目指名交換権でUtahへ放出した。
これは明確なWIN NOWだった。 KATを中心に成長してきたチームにアンソニー・エドワーズが台頭し、そこへゴベアを加えた攻守両方が強力な2ビッグが完成。
将来のドラフト資産を大量に使ってでも、今の戦力で優勝を狙うという決断だった。 その構想がようやく実を結び、2024年にはWestern Conference Finalsまで到達した。本来なら「ここから数年、このコアで優勝を狙う」という段階に入ったはずだった。 しかし、新CBA(労使協定)によって状況が変わった。
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Luxury Taxだけなら「払えばいい」で済んだ
当時NBAはMLBと同じLuxury Tax制度を利用。チームサラリーが一定額を超えれば、オーナーは高額な税金を支払う必要がある。
ただし裏を返せば、オーナーがその支払いを受け入れるのであれば、高額なロスターを維持することも可能だった
Golden State Warriorsはその代表例で、Stephen Curry、Klay Thompson、Draymond Greenを中心とした強豪チームを維持するため、長年にわたって巨額のLuxury Taxを支払ってきた。 年俸:1億17600万ドル ラグジュアリーTAX:1億7000万ドル 合計:年俸総額は併せて3億4600万ドル
ウォーリアーズはチーム資産価値:NBA全体1位 ※rankings/team-valuations
またクリッパーズのオーナー個人の総資産額:1,585億ドル /rankings/owner-net-worth
資産の大きなチームやオーナーに対して、金銭的な罰だけでは抑止力にならなくなった
そこでNBAは2023年の新CBAでSecond Apronを導入。 これは単純に「さらに高い税金を払わせる」制度ではない。 Second Apronを超えたチームは、補強そのものが難しくなる。 ここが以前との大きな違いだ。
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Second Apronは「罰金」ではなく「編成制限」 Second Apronを超えると、Mid-Level Exceptionという制度を使ってFA選手の補強やトレード方法などにさまざまな制限がかかる。さらに将来のドラフト指名権にも影響する。 ※Mid-Level Exception URL
つまりNBAは、「お金を使いすぎたら罰金を払ってください」という仕組みから、「お金を使いすぎたら、その後のチーム作りを制限します」という仕組みへ変わった。 今のメンバーを残すことができても、次の補強やトレードが難しくなる。その結果、ベンチ層を厚くできず、ケガ人が出た場合や既存選手が衰えた場合にも対応しにくくなる。
Second Apronの本当の厳しさは、Taxの金額ではなく、チームを修正する手段そのものが減っていくことにある。 ________________________________________
KATを手放した意味 ウルブズにはKATだけでなく、ゴベアの高額契約もあり、さらにエドワーズの大型契約も始まる。 3人を抱え続ければ、チームはSecond Apron圏に入るのは明確だった。 Luxury Taxだけなら、オーナーが払う覚悟を決めればいい。しかしSecond Apronでは、ロスターを維持するほどその後の補強が難しくなり、チーム全体の柔軟性を失っていく。 そこでウルブズはKATをNew Yorkへ送り、ランドルやディヴィンチェンゾらを獲得した。 KATが必要なくなったわけではない。むしろ、ドラフト1位から9年間育ててきたフランチャイズプレイヤーを、ようやく優勝争いが始まったタイミングで動かさなければならなかったことに、この制度のインパクトがある。 ゴベア獲得によって作ったKAT+ゴベア+エドワーズというWIN NOW構想は、結果として途中で修正を迫られた。 もちろんウルブズというチーム自体が崩壊したわけではない。しかし、将来の指名権を大量に使ってまで作った当初の構想が維持できなかったという意味では、Second Apronがチーム方針を大きく変えた象徴的なケースだった。
そして皮肉なことに、KATを加えたNew York KNICKSは2026年チャンピオンになり ウルブス側はKATを放出して手に入れたランドルは初年度はそこそこの出来だったが今シーズン終了後に相性の悪さかBrooklynに報酬。
________________________________________ Warriorsでさえ路線変更を迫られた Second Apronの影響を象徴するもう一つのチームがGolden State Warriorsだ。 Warriorsのオーナー ジョー・レイコブはCurry、Thompson、Greenを中心に王朝を築き、勝つためなら巨額の財政支出は積極的に行い王朝を築いた。 以前なら「Klay Thompsonを残すためにTaxを払う」という判断もできた。しかしSecond Apron時代では、選手を残した結果として、その後のFA補強やトレードまで難しくなる。 2024年、Klay ThompsonはDallas Mavericksへ移籍した。 もちろん、Second Apronだけが原因ではない。年齢、成績、役割、契約額、本人と球団の関係など複数の要素があった。 それでも、新CBAによるロスター構築制限がWarriorsの判断に影響したことは大きい。 財政支出をいとわなかったWarriorsですら、「払えるかどうか」ではなく「払った後にチームを動かせるかどうか」を考えなければならなくなった。 Second Apronは、オーナーの資産額では解決できない制度なのである。 ________________________________________ NBAが目指しているのはマネーゲームではない Second Apronを見ると、NBAがどの方向へ進もうとしているのかが分かりやすい。 ロサンゼルスやニューヨークのような巨大市場だから勝てる。ブランド力があるからスターを集められる。大富豪のオーナーがいるから高額なロスターを維持できる。 NBAは、そうした要素だけで優勝争いが決まるリーグにはしたくない。 近年のFinalsを見ると、その考え方はより分かりやすくなっている。 Oklahoma City Thunder、Indiana Pacers、San Antonio Spurs。 市場規模やブランド力でLos AngelesやNew Yorkと競うことが難しいチームでも、ドラフト、育成、契約管理、トレードを正しく積み重ねればFinalsまで到達できる。 Second Apronは、こうした戦力均衡をさらに強めるための制度でもある。 ________________________________________ ただし、Second Apronは本当に正しいのか 一方で、この制度には明確な副作用もある。 Klay ThompsonはWarriorsで長年プレーし、Curry、Greenとともに4度2015、2017、2018、2022年)の優勝を経験した。フランチャイズの歴史そのものと言っていいレジェンドである。 本来であれば、キャリアの最後まで同じチームでプレーする選択肢があっても不思議ではない。 KATも同じだ。 ドラフト1位から9年間育ててきたフランチャイズプレイヤーで、ようやくチームが優勝争いまで到達した。それでも将来のチーム編成を考えれば、トレードを検討せざるを得なくなる。 戦力均衡という意味では合理的でも、ファンから見れば「長年応援してきた選手を残せない制度でいいのか」という疑問は当然出てくる。 Second Apronは、マネーゲームを抑える強力な制度である一方、フランチャイズとスター選手の長期的な関係まで壊してしまう可能性がある。 Second Apronの犠牲、FinalMVPのジェイレン・ブラウンも二人も高額サラリー選手を抱えられないという事情で76ers放出
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Second Apron時代はフロントオフィスの時代 Second Apronによって、NBAのチーム作りで重要になるものも変わった。 ドラフト指名権、ルーキー契約、若手選手、安価で優秀なロールプレイヤー、そして契約管理の重要性は以前よりさらに高まっている。 スターを3人集めれば終わりではない。そのスターにいくら払い、周囲の選手をどの契約で残し、数年後にどれだけ編成の余地を残せるかまで考える必要がある。 KATを動かしたTimberwolves。 Klay Thompsonとの長い時代を終えたWarriors。 そして小規模市場からFinalsへ進んだThunder Pacers Spurs Nuggets Bucksなど これらは別々の出来事に見えるが、根底には同じNBAの方向性がある。 大都市、ブランド、オーナーの資金力ではなく、30チームすべてに優勝の可能性を残す。 Second Apronは、そのために作られた非常に強力な制度だ。 ただし、戦力均衡のためならフランチャイズのレジェンドまで手放さなければならない制度が、本当に最適なのか。 Second Apronの評価は、まだ始まったばかりだ。
構成●NBA Front Office Japan編集部
情報源
- NBA Fainal ・ basketball-reference.